『塩狩峠』三浦綾子

三浦綾子さんの本は『氷点』以来。☃


主人公の永野信夫は、塩狩峠で発生した列車の事故で、ほかの乗客を守るために自ら犠牲となった。
これがオチなのだが、裏表紙のあらすじに書いてあったので、物語の結末は知った状態で読み始めた。


だからこそ逆に、信夫の少年時代から青年時代は意外な印象だった。
ヤソは憎しと育てられ、クリスチャンの母親に複雑な感情を抱いていたけれど、母の柔らかな包容力に本当は甘えたくてしょうがないという気持ち。
親友に手紙で打ち明けた、青年期特有の悩み。大人の世界への好奇心と、清く正しくありたい自分の間でぐらつく気持ち。


ひとつひとつの信夫の悩みは、よく共感できるような、少しだけ懐かしいような。


やがて信夫は、職場でも協会でも人望を集めてゆく。
安定した人格を身に着けて、周りに人が集まって。
素晴らしいことなのに、何だか寂しくて。目の前のことと必死に戦っていた、子ども時代の信夫が愛しく思い出されて。
そして物語はあらかじめ知らされた結末に行き着く。


グワーッと読める面白さじゃないし、特別な仕掛けがある訳でもないけれど、
引き込まれて読めてしまうのは、やっぱり子ども時代の心の描写に共感するからでは、とも思ったりするのです。
いい大人でも。いや、大人だからこそ、かな?